第二十七章 静かに動き出す破滅の胎動[月夜のもとに]
雪乃(…あの力ならあの事件は可能…?)
草薙「…どうした?顔色が悪いように見えるが…。」
光一朗と話をしていた咲耶が、雪乃の真正面に立ち、うつ向いた顔を覗き込む。
雪乃「え?あ、ううん…何でもないの。何でも…。」
その態度は明らかにぎこちないのだが、何でもないと言われた以上咲耶は何も聞かないことにしたようだ。
―一方、成瀬と高坂を送ったすみれちゃんは光一朗が駆け上がっていった石段の一番下まで来ていた。
何も言わずいきなり走っていった光一朗が気になるらしく、石段を上るか、それともここで待つか考えていた。
その横を黒ずくめの人間がすり抜けるように通り、別の道へと入っていったのを目で追う。
すみれちゃん「…?今の人もしかして…。」
光一朗「あれ?先生、こんなとこでどうしたの?」
石段を下りてくる三人の先頭にいた光一朗が、すみれちゃんの姿に気付きありのままの感想を述べた。
すみれちゃん「あなたがいきなり走っていったから、二人を先に帰して待ってたんです!!」
すみれちゃんはそう言うと腕組みをしながら怒ってますと、口には出さないものの態度で表す。
第二十六章 ミズチの策略‐不安‐[月夜のもとに]
草薙「…縛呪!!」
周囲の草木がザワザワとざわめき始め、伸びた枝や茎や蔓が魑魅魍魎目掛けて集まった。
シュルシュルシュル…。
目に見えて伸びていくそれらは、魑魅魍魎を縛り上げるように絡み、まとわり付いていく。
やがてそれは一つの大きな球体となり、さらに力を増し、音を立てながら縛り上げていく。
俺と雪乃は言葉を失い、ただ目の前に作り上げられていく緑色の球体を眺めることしかできなかった。
ギリギリギリギリ…。
草薙「…終わりだ。」
溜め息混じりに言葉を紡いだ彼女に答えるように、緑色の球体の中からさっきの小人のくぐもった声が耳に届く。
魑魅魍魎「グ、グガア…アガッ!!」
パンッ!!
緑色の球体の中で何かが弾けるような音が聞こえると、縛り付けていた草木の枝や蔓はその力を弱め始めた。
シュルシュルシュル…。
ほどけていった中から出てきたのは小石や草木の葉。先程の小人は姿形すら残ってはいなかった。
俺と雪乃は顔を見合わせ小石と木の葉を恐る恐るつついてみた。
草薙「…もう襲ってくることはない。」
雪乃(さっきの力は一体…?)
雪乃の顔だけが曇っていく。
第二十五章 ミズチの策略‐魑魅魍魎‐[月夜のもとに]
ボコボコ、ボコボコボコッ!!
地面から這い出てきたのは、人間の頭ほどの大きさをした赤黒い肌を持つ小人だった。
その小人は三人の居る周囲の一帯から出てくると、とり囲むように群がり始めた。
雪乃「きゃ!なんなのコレ?!」
足元に群がった小人は、雪乃の服の裾を掴むと這い上り始めた。それに驚き裾を振り払うが、しっかりと掴んでいるらしく落ちる気配すらない。
光一朗「くそっ!数が多すぎる!」
ズボンに群がってきた小人を蹴り上げるが、平気なのかまた集まりだしていく。
雪乃に群がった小人は腰の辺りまで登り、赤く光る目で気味の悪い笑みを浮かべた。
草薙「魑魅魍魎とは厄介なものを用意してくれたものだ…。」
慌てふためく二人を余所に、一人冷静に蹴り飛ばしては踏み潰す咲耶だけがこの小人がなんなのか分かっていた。
草薙「二人とも、この場から離れて。私に考えがある。」
そう言うと光一朗の方を向き、あの子を頼むと目で合図をし頷いた。
光一朗「雪乃、こっちだ!」
光一朗は小人を叩いて落としている雪乃の手を取り、咲耶のいる石段とは違う方向へ走り出した。
草薙「陰陽五行、木。穢れし霊に木神の戒めを…。」
ただいま〜[日記]
今帰宅しました。土曜出勤で次から次へと違う仕事にたらい回しにされてました
すごい半端な雑用に近い仕事ばかり…
あと、頻繁に様子を見に来るから気が散って集中できない
30分くらいほっといてくれたら何か感覚が掴めるのに、10分くらいで見に来て隣か背後に立って無言でじっとりとした視線を感じた1日でした
第二十四章 ミズチの策略‐罠‐[月夜のもとに]
風に靡く長い黒髪を右手でたくし上げ、ゆっくりと、無駄の無い動きで近付いてくる。
彼女は久遠寺雪乃。
俺が去年の夏に晃とありかの三人で買い物に出掛けた時に知り合った子だ。
しつこく男に言い寄られ、困っているのを助けたのがきっかけだった。
今ではありかと同じクラスになり、二人でよく出掛けるらしい。
雪乃「あら?そちらの方は…彼女さん?」
草薙「…違う。今知り合ったばかり。」
雪乃「そうなんですか?ごめんなさい。何か早とちりしちゃったみたいで…。」
早合点したことを詫びながらも、俺に向けられる視線は『残念。フラれちゃいましたねぇ…。』と言わんばかりだ。
ジャリ…ジャリ…。
雪乃の後方から全身黒ずくめの人が歩いてくる。
???「………………。」
草薙「…!!」
黒ずくめの人間は咲耶の背後を通り、すれ違いざまに何かを告げると石段を降りていった。
『今ここで戦えば他の二人に危害が及ぶ。その代わり面白いものを用意しておいた…。』
咲耶がずっと黒ずくめが降りていった方を眺めているのを変に思い話しかけようとした瞬間…
ボコッボコボコボコ…!!
地面から何かが這い出してきた…。
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