第四章 道化者の愚考[月夜のもとに]
事件絡みの時に集まるマスコミはあまりいい印象がない。たぶんこの考えは俺一人じゃないと思う。
晃に目を向けると口をへの字に曲げている。明らかな不快を感じているようだ。
何処からかこちらに向けられている嫌な視線を感じ、視線を向けているのが誰なのか探してみると校門の向かいに立っている電柱に、寄り掛かっている一人の男と目が合った。
男は電柱から離れ、こちらに向かってくる。
マスコミの男「君たち、ここの生徒だよね?例の事件の事で2、3聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
晃「俺達、急いでるんで……!!」
断りの台詞を口にして校門を潜ろうとすると、男は無言のまま二人の肩を掴んだ。
マスコミの男「…今朝の被害者、ここの生徒に暴力や恐喝をしてたって話を聞いてねぇ…。殺してやりたいなんて考えてる奴いてもおかしくないんじゃないかな…。」
光一朗「な!?あんた、何考えて…!!」
女の先生「ちょっとそこの貴方、うちの生徒捕まえて何してるんですか?!」
マスコミの男「ちょっと話を聞いてただけですよ。国民に真実を伝えるのがオレの役目でね…。」
そう言い残すと背を向け、その場を離れていった。
第三章 狂い始めた歯車[月夜のもとに]
…神代市立神代学園。
神代市は割りと新しく学園都市として認定され、都市開発が進み始めたばかりだ。
女子生徒A「おっはよー、今朝のニュース見た見た?」
女子生徒B「見た!アレって隣街の高校生が被害者なんだよね?」
学園に続く坂道を登っていくと、擦れ違う学園の生徒の声が耳に届く。
朝の話題は今朝未明に起きた事件で持ちきりだ。そんなことは今の俺にとって問題ではない。
男子生徒A「ふわあぁ〜。眠い…。」
男子生徒B「相変わらず眠そうだな、光一朗。」
光一朗「ん?晃か。仕方ねーだろ、例の事件起きたの俺ん家のそばでさ…。警察に野次馬が来て起こされて…結局寝られなかったんだから。」
俺の名前は佐伯光一朗。生まれは同じ東京だが、親の転勤に合わせて四年前に引っ越してきた。編入先の中学で話しかけてきたこの男、高坂晃と知り合うことになった。
晃「ま、あんな事件じゃ警察が躍起になるのも無理ないな。マスコミも騒ぎ立ててるみたいだし…。」
そう言って晃は校門の側にカメラを構えている数人の男達に目を向ける。
何人かの生徒がマスコミらしき男達に話しかけられ、そそくさと校門を潜り抜けていく。
第二章 不可解な事件[月夜のもとに]
高校生A「シカトしてんじゃねーよ!…あ?!………ぅ、うわあああああああああああああああああああ!!」
…………‥‥‥。
男性「警部、ご苦労様です!」
警部「ガイシャ連中の身元は?」
部下「は。隣街の高校生達の集まりで、よくこの辺を深夜徘徊してたそうで…。」
警部「隣街の高校生ねぇ…。しかし、この殺され方は尋常じゃねえなぁ…。」
遺体は全身の骨を折られ、額には刃物のようなもので貫かれた深い傷痕が二本。
警部「やり口は前の事件と同じ…か。しかし、ガイシャの共通点はなく、三件目とはな…。」
コートの胸ポケットからタバコとライターを出して、口にくわえると火をつけ深く煙を吸い込んだ。
警部「…ふぅー…。何なんだこの事件は…。」
誰が答えてくれる筈もなく、ただ夜空に吸い込まれて消えていく…。
しっくり来ない疑問を溜め息混じりにタバコの煙と共に吐き出した。
事件現場から少し離れた電柱の上に、1人のシルエットが月を背に立っていた。
???「…微かに感じる妖魔の気配…。必ず、必ず見つけ出す。」
そう言葉を紡ぐと髪を翻し、夜の闇へとその姿を消した。
第一章 闇夜に蠢く者[月夜のもとに]
神代市
1時20分…。
街は静寂に包まれ、所々で道を照らす街灯の明かりだけが、暗闇の世界と光の世界との境界線を浮かび上がらせていた。
静寂な世界に不釣り合いな笑い声がどこからかこだまする。
高校生A「ギャハハハハ…バッカじゃねーの、ソイツ。」
男子高校生数名が固まって、歩きながらくだらない話をしている。
端から見れば、ごく普通の光景だろう。唯一、時間に関して言うと深夜徘徊に該当する。
つまり彼等は不良と称される存在であること。それを除けばの話。
コツ…コツ…コツ…。
反対側から人が歩く音が聞こえてくる。音からして人数は1人だけの様子。
高校生B「こんな時間に一人出歩くなんて不用心だね〜へへへ。」
何か良からぬ事を企んだのか、気味の悪い笑い声を上げながらニヤリと笑い仲間とアイコンタクトをとった。
暗闇から街灯の下に姿を表したのは、眼鏡をかけた女性。何処と無く漂う凛とした雰囲気は職業柄なのだろうか。
高校生B「ねぇねぇ、そこのお姉さん。暇なら俺等と遊ばねぇ?」
声を掛けられた当の女性は一瞥すると素知らぬ振りをして立ち去ろうとする。
序章 月夜の下に[月夜のもとに]
今から約千年前の頃、世紀末思想が人々の中に生まれ、民は人間として扱われず疫病が流行り、道端や川には命を落とした者達の亡骸がそのままにされていた…。
その反面、武士は己の力を鍛え、貴族の護衛となることで日々の糧を得ていた…。
そして武士を護衛とした貴族は、独自の文化を作り上げ、民草とは違う華やかな生活を送り安穏と暮らしていた…。
苦しみながら死んでいった魂と肉体は妖怪を呼び寄せ、魑魅魍魎をも産み出す…。
夜の帳が落ちる頃、生温い風とともに死を迎えた人間の亡骸の中を妖怪達が群れをなし、町を行脚する…。
貴族達は虐げられた民草の怨念として、妖怪達を鎮め、あるいは討滅する力を持つ祈祷師や陰陽師に頼るようになった…。
それから千年あまりの月日が流れ、妖怪の存在は人々の記憶から消えていた…。
そして妖怪を恐れることが無くなるにつれ、妖怪を退治する力を持つ者達もまた歴史から姿を消していった…。
時は2010年。
東京の外れにある神代市。
この市内で奇怪な事件が起き始めた…。
この物語はフィクションです。団体・施設・個人名等は架空のものです。
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