第九章 闇夜に見(まみ)える者[月夜のもとに]
眼鏡の女性「…人間の男はこうも単純で、愚かな生き物なのか?」
男「な、何なんだ…あんたは…。」
全身を締め付けられ、身動きひとつとることができない。
眼鏡の女性「そうね…自分を殺した相手の顔くらい目に焼き付けておきたいわよね…。」
ひどく冷たく言い放つ言葉一つ一つに反応するように、体から冷や汗が出て緊張感が増していく。
眼鏡の女性「見せても構わないけど…貴方の気が正常でいられるかしら…?」
ブン!
首を絞めている腕ごと振り回され、今まで背中ごしに話していた相手の方へと体を向けさせられる。
男「…!!な、何なんだ…これは…。」
目の前に広がっていた光景は、あまりにも現実離れし過ぎていて言葉を失った。
白い肌をした四つ首の大蛇が赤い舌をチロチロと出していたのだ。
首を絞めていた腕はいつの間にか太く固い鱗に覆われている胴になっており、徐々に締める力を上げていく。
ギリギリギリギリギリギリ……。
男「…くっ…。ば、化け物…。」
???「陰陽五行、木。一陣の風纏い、邪気を切り裂け…。」
意識を失い始めた耳に林の奥から小さな声で誰かが喋っているのが微かに聞こえた。
第八章 自ら招いた運命(さだめ)[月夜のもとに]
眼鏡を掛けた女性は、落ち着かないような態度をしながらこう続けた。
事件の犯人に繋がるかもしれない情報を偶然手に入れた…。
ただ、その事が原因で犯人に命を狙われている。だから話をするなら人目を避けた場所にして欲しい…と。
話を聞かなければ犯人に繋がるかどうかは判断しにくい。正直眉唾物ではあるが…。
男「…わかった。あの奥の林でいいか?」
指差した方には噴水があり、その奥には夜の闇色に染まった林が見える。
この時間ならカップルの一組や二組が居てもおかしくないのだが…この公園は近々拡げる工事をするらしく、人の気配は全く感じられなかった。
林の中に入り、思った以上に暗くなっていることに気付く。
男「…そろそろ、話してくれないか?もう人気もない場所に来たんだし…。」
眼鏡の女性「………。」
背中ごしに話し掛けても返事ひとつ返ってこない。もう少し先に行ってみれば話してくれるか…?そう思った瞬間。
トン。
背中に心地よい暖かさと重みを感じた。それと同時に腕を首に巻き付けてくる。
男「何を…。」
ギリギリギリギリ…。
男「がはっ。まさか、あんたが…!」
眼鏡の女性「フフ…。」
第七章 情報提供者[月夜のもとに]
同日19時…。
神代市の隣街明神町。
ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…。
新聞社専用の駐車場に停めてある車の中から、携帯の着信音が鳴り響く。
運転席に被さっている毛布がモゾモゾと動き出し、自分の服のポケットを探る。
ピリリリ…ピリリリ…ピッ。
男「…もしもし。あー、昼間はどうも。はいはい、そうですか。わかりましたすぐ向かいます。はい、では…。」
ピッ。
仮眠を取っていた俺の携帯にある人からの連絡が入った。まだ寝惚けたような目をしているが口元は少しにやついているのがわかる。
ブオォン!
車のキーを回し、エンジンを稼働させるとその駐車場を後にした。
…………………。
30分程経って、俺は神代市の公園に居た。電話の相手との待ち合わせをしている。
???「…お待たせしてしまってすみません。」
そう言って現れたのは眼鏡を掛けた髪の長い女性だ。
???「あの事件のことで気になったことがありまして…。」
この女性は何か知っているのか、神代学園の生徒と被害者の男子高校生の話を俺にしてくれた。
今日も気になる情報があるからと携帯に連絡が入って今に至る。
第六章 現実と非現実の間[月夜のもとに]
俺達は正面玄関を通過し、教室へと続く長い廊下を歩いている。
晃「なぁ、光一朗。あのオッサンのこと気にしてんのか?」
オッサンとはさっき合ったばかりのマスコミのことだろう。
光一朗「あぁ…。また近いうち必ず俺達の前に現れるんじゃないかってな…」
晃「だろうな。でも俺達が考えても仕方ないだろ?先生達が対応するらしいしさ。」
確かにそう言われている。でも、これから先この事件が続いた場合。この学園の関係者にも被害が出ない可能性はゼロじゃない。
いつ自分が被害者になるかもわからない…。
ガラガラ…。
教室のドアを開けると、黒板に書かれた『自習』の文字が目に入る。
この日半日は結局自習が続き、昼の時間を迎えた。
女子A「あ〜〜ん。もぐもぐ。」
女子B「こはる…あんた毎日メロンパン食べてるけど飽きないの?」
こはる「メロンパンおいしいよ?」
この女子の名前は成瀬こはる。彼女は目を2、3回瞬きすると首をかしげながら答えた。
学園の外ではまだマスコミが校門にいるのが見え、中ではいつもと変わらない風に見えても、いつもとはどこか違う時間が流れているのがわかる。
第五章 守るもの、守られるもの[月夜のもとに]
マスコミの男が去り際に見せた背中に、俺達は親の敵を憎むような目付きで睨み付けた。
女の先生「ほら二人とも、急がないと遅刻になっちゃいますよ?」
そう言いながら先生は、右手の人差し指を立ててこちらに向けて微笑んだ。
この先生は俺達のクラス担任の朝比奈 菫先生。今年先生としてこの学園に来たばかりで、年齢はあまり離れてない上に身長も高くないから『すみれちゃん』って愛称でみんな呼んでいる。
菫「今のヒトに関しては先生達でなんとかします。だから君達は気にしないでしっかり勉強してくださいね?」
晃「了解であります。んじゃ行こうぜ光一朗。」
晃は菫先生に、刑事物のドラマで良く見る敬礼をまねすると、腕を下ろしながら俺の方へと目を向けた。
光一朗「ん?ああ…。」
気にするなと言われて、気にならないと言うことはまず無い。
でも今ここで考えて解決できるような問題でもないのは確かだ。
親の脛をかじりながら社会に出る為に勉強している子供の言葉が、ああいう大人に易々通用するとは思えない。
大人に守られなければ自分すら守れない…。そんな自分に歯痒ささえ感じた。
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