第二十九章 想いと誓い[月夜のもとに]
雪乃「こうちゃん、あのね…。」
うつ向いた顔は未だに上がることはなく、ただ事ではないのだと感じる。
心配そうに見ていたすみれちゃんと咲耶には悪いが、先に二人で帰ってもらうように頼んだ。
草薙「…わかった。それじゃまた明日な。」
相変わらず冷静な咲耶はそう言うと石段を下りていく。
すみれちゃんは真面目な顔をして右手の人指し指を立てて俺に向けると
すみれちゃん「佐伯くんに限ってないとは思いますが…送り狼にはならないように。」
真面目な顔つきをしながら妙な心配と余計なお世話を口走り、体を翻して咲耶の後を追いかけていった。
佐伯「…たく。何の心配してんだか…。」
やれやれといった感じに後頭部を右手でボリボリとかじる。
雪乃「こうちゃんは…怖くないの?草薙さんの力…。」
光一朗「…怖くないと言えば嘘になる。全てを信じた訳じゃないけど、あの子は俺達を助けてくれた…。だから…」
ギュッ…。
今度は制服の背中の部分を掴まれ、背中に雪乃の頭が触れる。
雪乃「わかった。じゃあ、1つ約束して…。自分から命を危険に晒さないって。」
光一朗「…ああ。」
俺は夕日に染まる空を見上げた。
第二十八章 不安に揺らぐ雪乃[月夜のもとに]
光一朗「…その、ごめんなさい。」
後ろに立っている二人に背中をつつかれ、謝りなさいと諭されている気がして素直に頭を下げた。
すみれちゃん「まったくもう…事件は解決してないんですから、自分でも気を付けなきゃ…あら?草薙さんに久遠寺さんじゃない。」
すみれちゃんは俺の後ろにいる二人に気付き、怒っていた声のトーンを上げた。
光一朗「…え?なんでこの子の名前知ってるんですか?」
すみれちゃん「草薙さんは、明日から学園に来ることになってるから。今日、顔合わせしたの。」
光一朗(…この子がありかの言ってた転校生だったのか…。しかし…)
草薙「…ん?何をジロジロ見てる。この制服が気になるのか?」
お嬢様っていうからどんな世間知らずが来るのか気にはなっていたが…。お嬢様よりも女王様の方がしっくり来そうだな…。
そんなやり取りをしていた俺達と違い、雪乃は不安そうな顔をして俺の上着の裾を掴んで二回引っ張った。
光一朗「…ん?」
後ろを振り向くと、顔が見えない程にうつ向いた体制の雪乃がそこにいた。
彼女は不安に押し潰されそうな小さな声を絞り出し、何かを訴えるように口を開いた。
第二十七章 静かに動き出す破滅の胎動[月夜のもとに]
雪乃(…あの力ならあの事件は可能…?)
草薙「…どうした?顔色が悪いように見えるが…。」
光一朗と話をしていた咲耶が、雪乃の真正面に立ち、うつ向いた顔を覗き込む。
雪乃「え?あ、ううん…何でもないの。何でも…。」
その態度は明らかにぎこちないのだが、何でもないと言われた以上咲耶は何も聞かないことにしたようだ。
―一方、成瀬と高坂を送ったすみれちゃんは光一朗が駆け上がっていった石段の一番下まで来ていた。
何も言わずいきなり走っていった光一朗が気になるらしく、石段を上るか、それともここで待つか考えていた。
その横を黒ずくめの人間がすり抜けるように通り、別の道へと入っていったのを目で追う。
すみれちゃん「…?今の人もしかして…。」
光一朗「あれ?先生、こんなとこでどうしたの?」
石段を下りてくる三人の先頭にいた光一朗が、すみれちゃんの姿に気付きありのままの感想を述べた。
すみれちゃん「あなたがいきなり走っていったから、二人を先に帰して待ってたんです!!」
すみれちゃんはそう言うと腕組みをしながら怒ってますと、口には出さないものの態度で表す。
第二十六章 ミズチの策略‐不安‐[月夜のもとに]
草薙「…縛呪!!」
周囲の草木がザワザワとざわめき始め、伸びた枝や茎や蔓が魑魅魍魎目掛けて集まった。
シュルシュルシュル…。
目に見えて伸びていくそれらは、魑魅魍魎を縛り上げるように絡み、まとわり付いていく。
やがてそれは一つの大きな球体となり、さらに力を増し、音を立てながら縛り上げていく。
俺と雪乃は言葉を失い、ただ目の前に作り上げられていく緑色の球体を眺めることしかできなかった。
ギリギリギリギリ…。
草薙「…終わりだ。」
溜め息混じりに言葉を紡いだ彼女に答えるように、緑色の球体の中からさっきの小人のくぐもった声が耳に届く。
魑魅魍魎「グ、グガア…アガッ!!」
パンッ!!
緑色の球体の中で何かが弾けるような音が聞こえると、縛り付けていた草木の枝や蔓はその力を弱め始めた。
シュルシュルシュル…。
ほどけていった中から出てきたのは小石や草木の葉。先程の小人は姿形すら残ってはいなかった。
俺と雪乃は顔を見合わせ小石と木の葉を恐る恐るつついてみた。
草薙「…もう襲ってくることはない。」
雪乃(さっきの力は一体…?)
雪乃の顔だけが曇っていく。
第二十五章 ミズチの策略‐魑魅魍魎‐[月夜のもとに]
ボコボコ、ボコボコボコッ!!
地面から這い出てきたのは、人間の頭ほどの大きさをした赤黒い肌を持つ小人だった。
その小人は三人の居る周囲の一帯から出てくると、とり囲むように群がり始めた。
雪乃「きゃ!なんなのコレ?!」
足元に群がった小人は、雪乃の服の裾を掴むと這い上り始めた。それに驚き裾を振り払うが、しっかりと掴んでいるらしく落ちる気配すらない。
光一朗「くそっ!数が多すぎる!」
ズボンに群がってきた小人を蹴り上げるが、平気なのかまた集まりだしていく。
雪乃に群がった小人は腰の辺りまで登り、赤く光る目で気味の悪い笑みを浮かべた。
草薙「魑魅魍魎とは厄介なものを用意してくれたものだ…。」
慌てふためく二人を余所に、一人冷静に蹴り飛ばしては踏み潰す咲耶だけがこの小人がなんなのか分かっていた。
草薙「二人とも、この場から離れて。私に考えがある。」
そう言うと光一朗の方を向き、あの子を頼むと目で合図をし頷いた。
光一朗「雪乃、こっちだ!」
光一朗は小人を叩いて落としている雪乃の手を取り、咲耶のいる石段とは違う方向へ走り出した。
草薙「陰陽五行、木。穢れし霊に木神の戒めを…。」
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