第三十九章 深き眠りより目覚める力[月夜のもとに]
ギリギリギリ…。
胸の辺りを圧迫され、呼吸もままならない。
次第に意識が遠退いていき、身体から力が抜けていく…。
遠ざかる意識を、藁にもすがるような思いで繋ぎ止めていたのも、結局は無駄だったのだろうか…。
気だるさと酸欠で朦朧とした耳に、微かに声が届いた。
???「嫌だよ…助けて…。光一朗…。」
その小さな声は、今俺を拘束しているはずのありかのものだった…。
力を振り絞り微かに開いた目蓋に見えたのは、真っ赤に染まった目から涙を流すありかの顔…。
光一朗(ありか…。そうか、お前も戦ってるんだな。負けて…らんないよな…。)
キイーン…。
携帯に着けている赤い水晶の勾玉が微かに光を放ち始める。
親戚の人から御守りにと渡されたものだ。
初めは赤い色が血の色みたいで嫌がっていたのだが…親が偉い神社の神主だか、有名な占い師だかに見せた所「厄災から身を守る力がある。」と言われたらしく渋々着けている。
水晶の勾玉から発せられた光は少しずつ俺の身体を覆い、それにつられるように朦朧としていた意識がはっきりとしてきた。
光一朗「…ありか。悪い。」
俺は右腕と右足に力を込めた。
第三十八章 親しき操り人形-マリオネット-[月夜のもとに]
ありか「う、うーん…。」
ありかはゆっくりと伏せていた顔をあげ、眠たげな瞼を手の甲でしきりに擦り始めた。
ありか「…こーいちろぉ…?」
まだ微睡んだ状態なのか、呂律が上手く回らずに舌足らずな声を発している。
光一朗「…ったく。こんなとこで寝てると風邪引くぞ?」
そう言うとありかの座っている椅子に掛けてあったフリースの上着を背中にそっとかけた。
ありか「……………。」
左手の手の甲で目蓋を覆い隠す様にした状態のまま、何一つ声を上げず動きが止まってしまった。
光一朗「おい、ありか…?」
また居眠りでも始めたのかと、顔を覗き込もうと姿勢を低くして話し掛けたその瞬間
ガッ!!ダンッ!!
目を閉じたまま振り向き様に、両手で肩をいきなり掴まれ、そのままの勢いで壁に叩き付けられた。
光一朗「げほっ、いきなり何すんだ…ありか!!」
ありか「…ふふ。つかまえた」
ありかは耳元でそう囁くと肩を抑えたまま、正面に立って閉じていた目を開いた。
光一朗「……な、ありか…お前…。」
開いたその瞳は血の様に紅く、冷たい光を宿していた。
まるで人間ではない何かに操られているかのように…。
第三十七章 暗闇の学園で待つもの[月夜のもとに]
コツ…コツ…。
夜の学園は静寂に包まれ、自分の歩く音だけが廊下にこだまする。
反響音が聞こえてくる度に、深い闇からの言い表せない不安と背後にまとわりつくような恐怖心に、心を少しずつ支配されていくのがわかる。
ワケもなく嫌な感覚から周囲を警戒しながら進んでいく。
ギネス級のお化け屋敷や、曰く付きの心霊スポットの中に1人取り残されてしまった。
そんな感じさえしてしまうくらいだ。
コツ…コツ…コツ。
廊下を進んでいくとある教室に明かりが見えた。
光一朗「…ふぅ…。」
人は暗闇の中で感じる不安や孤独感は、火や光などの明るさに触れることで一時解放されることがある。
心理的な反応によるものなのだろう。俺は1つ溜め息をつくと肩の力に抜いた。
教室にいたのは机に伏せた体勢のままの小鳥遊ありかだった。
気持ちよく寝ているものを起こすのは気が引けるが、電話の内容も気になり、避難させた方がいいだろうと判断し起こすことにした。
光一朗「ありか、起きろって。」
肩を軽く二、三度ゆすって声をかけた。
ありか「…………。」
熟睡しているのか起きる気配は全くない。
ありか「…ん…う、ん…。」
第三十六章 夜空の月が照らすもの[月夜のもとに]
―――――夜。
満月が煌々と夜空を照らす元、学園の校門前にいた。
咲耶と別れたあとにかかってきた非通知の電話が、ここに来た直接の理由だ。
それは今から2時間前に遡る…。
ヴー…ヴー…ヴー…。
光一朗「……ん?」
自分の部屋に居た俺はズボンのポケットから携帯を取り出した。携帯の画面には非通知の文字が表示されている。非通知でかけてくる友人はいないがそのまま放っておくわけにもいかず、通話ボタンを押した。
光一朗「…もしもし?」
【…今夜8時学園に来い…。来なければお前の知り合いが一人物言わぬ人形へと変わるだけ…。】
光一朗「ちょっと、何を言って…」
プツン。ツー…ツー…ツー…。
電話の主は用件を告げると、こちらの返事を最後まで聞く暇さえ与えずに切った。
光一朗「…名前くらい名乗れっての。言いたいこと言って勝手に切るなんて…。」
機械的な音声の電話の主に、心当たりはもちろんない。
光一朗「……今夜8時学園に来い…か。」
携帯を握り締めたまま味気無い待受画面を見つめた。
言い表せない不安も感じたが、電話の言葉が気になる。
【物言わぬ人形へと変わるだけ…。】
第三十五章 迫り来る戦いのために…。[月夜のもとに]
…呼び出された俺は待ち合わせの場所に続く石段を昇っていた。
頭の中には今朝見たニュースが、まるで洗濯機の中の衣類のようにグルグルとひっきりなしに渦巻いている。
先生に何が起きたのか…。咲耶は先生を助ける術を知っているのか…。俺に何かできることはあるのだろうか…。
雨雲のようなどんよりとしたものに、頭を支配されている感じさえする。
最後の石段を昇ると、鳥居に寄りかかっている咲耶が視界に入る。
彼女は目を閉じて考え事でもしていたのだろうか腕を組んでいる体制をとっていた。
咲耶「…ここに来るまでにあらかた予想はついているとは思うが…。」
目を閉じている咲耶は、そのままゆっくりと語り始めた。
咲耶「…すみれ先生はこの一連の事件に深く関わってしまった。おそらくヤツにとり憑かれ、利用されているとみて間違いないだろう…。」
光一朗(ヤツ…以前咲耶が俺に話したこの事件の犯人である人外の化け物のこと…か。)
光一朗「…なぁ、先生を助ける方法はないのか…?」
俺の質問に対し、彼女は目を開ける様子もなく数秒間沈黙した。
咲耶「…ある。満月である今夜必ずヤツは動く。そこで倒せれば助かる。」
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